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薬学研究の推進と学生への手厚い支援を目指した静岡県立大学薬学部の2つの取り組み

2021年に創立105年を迎えた静岡県立大学薬学部。同学部では、創薬科学、医療薬学、衛生薬学など薬学の基礎を着実に身につけた上で、高度な専門性を有した薬学研究者、専門知識と技術を有する薬剤師および薬食融合領域の研究者の育成を目指しています。 このような最先端の担い手の育成を支援するために一般社団法人化された「静薬学友会」、米国型の臨床実習が可能となった「薬学教育・研究センター」について賀川薬学部長にお話を伺いました。

賀川 義之(かがわ よしゆき)薬学部長

▼ご経歴
静岡県立静岡薬科大学薬学部卒業。同大学院修了後、三重大学医学部附属病院薬剤部にて文部技官薬剤師、副薬剤部長として勤務。
その後、静岡県立大学薬学部にて教授、副学部長を経て静岡県立大学薬学部薬学部長を務めている。中国浙江省医学科学院・客員教授も兼務。

▼おもな研究内容
認知症治療薬、抗てんかん薬などの治療効果・有害事象と薬物動態との関係を解明することで、至適投与設計法の開発を目指している。

この記事に書いてあること

卒業生からの寄附金を原資に学生支援へ

ー「静薬学友会」はどのような経緯で一般社団法人化されたのでしょうか。

静岡県立大学薬学部は創立105年を迎える日本でも有数の歴史ある薬学部です。同窓生も数多く、以前から同窓会組織と薬学部の教授組織、学生との関係は非常に密接でした。

ただ、これまでは親睦的な色が濃かったのですが、2016年に薬学部創立100周年の記念行事(静薬創立100周年)をきっかけに、現学友会会長の安倍道治氏から学生への支援を組織の事業として取り組むように同窓会組織も変えようじゃないかと提案があり、静薬学友会が2018年に社団法人化しました。

ー法人化したことによって、変化したことはありますか。

法人化により、寄附金の税額控除が可能となり卒業生からの寄附金が受けやすい環境が整備されました。本学は研究を非常に重視している大学なので、学部学生または大学院生が海外への短期留学や国際学会へ参加することがあります。その際の旅費や滞在費も寄附金から支援していただくことが可能になりました。

ー卒業生からの支援の輪が広がり、学生の活躍にも繋がりますね。

そうですね、近年では、卒業生2名からの寄附金により、寄附講座の立ち上げや独自の奨学金制度も整いました。

  • 薬学キャリアデザイン近藤寄附講座
    静岡薬科大学15回生(1971年卒)の近藤隆様の寄附をもとに、薬学部内に薬学キャリアデザイン近藤寄附講座を作り、卒業生が勤務する製薬企業や厚生労働省のキャリア官僚、病院・薬局の薬剤師の方を中心に講義などでの非常勤講師を務めていただいています。現場で勤務されている方々からの講義は臨場感に溢れ、薬剤師養成教育の質を上げていく取り組みに繋がっています。
  • 内西いよ子奨学金
    静岡県立大学の前身であった静岡女子薬学校を卒業(1947年)後、薬剤師として勤務された内西いよ子様からの遺産によって設立された奨学金制度です。内西さんは、2018年に90歳で生涯を閉じられましたが、薬剤師として働けたことが人生の支えになったとのことから、母校の薬学生のために役立ててほしいと約1億5000万円の寄附をいただきました。寄附金の使途についてですが、近年では、薬学部の6年制を卒業した後、大学院への進学希望者が非常に少ないのが現状です。そのような学生をエンカレッジするための制度として設立され毎月約50,000円を大学院生に無償貸与しています。この奨学金は返済義務がないので、安心して修学資金に充てることができ、継続的に研究活動ができ成果が上げられ、就学意欲がある学生を支えられる制度になっています。

現場での実務をOB目線で伝える就職説明会を実施

ー寄附金以外にも、卒業生の協力を得る機会はあるのでしょうか。

毎年4月に薬学部のみで薬系就職説明会を実施しています。説明会の参加者は全国の病院、薬局、製薬企業、厚生労働省あるいは県などですが、その中に学友会の組織の方達もひとつのブースを設置しています。

学友会ブース設置の目的としては、薬学部の5〜6年生は就職対象者となるので企業等にとっては重要な対象となりますが、1〜2年生は企業の採用担当者から見ると、直近での就職対象者ではないので積極的に話をするメリットがあまりありません。しかし、私たちはキャリア形成で重要なのは低学年からのステップアップだと考えていますので、1〜2年生に対しても、製薬企業の内情や病院薬剤師の仕事内容、厚生労働省の業務内容などを採用者目線ではなく、OB目線で説明する支援を行っていただいています。

このように、法人化したことで、卒業生のネットワークを活かし、様々な支援をいただいています。学生たちにとっても、みなさまからの支援が今後の活躍に繋がる架け橋になるので、大変ありがたく思っています。

外部の病院に薬学教育と研究を推進するためのセンターを設置

ー「薬学教育・研究センター」はどのような経緯で設置されたのでしょうか。

6年制薬学科でのカリキュラム内に薬学教育のための実務実習があります。しかし、静岡県立大学は医学部を設置していないため、附属病院がありません。そのため、臨床薬学教育や研究を行うことができず外部の医療機関と連携する必要がありました。

連携するにあたり、静岡県知事のご理解のもと、2002年に同県の組織(※)であった静岡県立総合病院内に「薬学教育・研究センター」を設置する運びとなりました。2017年には同病院内に「先端医学棟」が建設されたのですが、このように一般病院の中に研究棟があるのは、とても珍しいことで、開設にあたっては2016年まで本学にて理事長を務めていたノーベル賞を受賞された本庶佑先生及びび静岡県立病院機構の田中一成理事長のご尽力により実現いたしました。先端医学棟には、以前病棟内にあった研究室をはじめ、本学の4つの薬学部研究室をブランチ研究室として大学キャンパス外に設置しています。

※静岡県立大学は2007年、静岡県立総合病院は2009年にそれぞれ独立法人化

ー薬学教育・研究センターでの教育体制を教えてください。

教育面に関しては、薬学部専任の実務家教員※が6名が常駐し、年間、本学生28名の病院実務実習の指導を行っています。多くの大学では病院の薬剤師に現場での指導を一任している教育を行っていますが、本学ではアメリカのPharm.Dの養成型教育を念頭に教員がメインとなり薬剤師とともに行う指導体制をとっています。

※病院や薬局での薬剤師経験が5年以上、博士の学位をもち国際的な論文を出せるような教員

ー薬学教育・研究センターでは、どのような研究を行っているのでしょうか。

静岡県立総合病院内の研究医学棟の中に380平米以上の研究室があります。そこでは、臨床医との研究を推進していますが、研究室があっても、使用する研究機器がないと研究ができません。

しかし、血液中に微量に含まれる薬物や代謝物を測定し薬物治療がどのように生体内へ影響を及ぼしているのかを分析する質量分析計や、一人ひとりに合わせた投与量を設定する遺伝子の情報を解析するDNAシークエンサー、PCRなどの最先端の機器を静岡県から援助していただき、大学とともに整備しました。

その結果、臨床薬学での成果として、海外の英文雑誌にかなりの高頻度で論文を出しており、論文数として成果をあげている認識です。

さらに、静岡県立総合病院内の薬剤師の方も病院内に研究室があることで、社会人の大学院生として入学していただき、患者さんの血液中の薬物濃度や代謝物の濃度、遺伝子を解析するというような臨床薬学研究を行っています。薬剤師さんにとっては、勤務している病院のなかに研究室があるので、気軽に行けることと時間的なロスもほとんどないので、そのような環境下で臨床薬学研究ができる強みはかなり大きいと考えています。

薬局実務実習のために県内の薬局と連携

ーその他にも薬学部の学生は実務実習を行っているのでしょうか。

6年制の薬学教育で求められていることとして、病院・薬局それぞれ11週間、合計22週間の実務実習が必要となります。この中で、薬局実習に関しては静岡県立大学薬学部の連携薬局を作り薬学実務実習の拠点として民間の薬局にお願いしています。

現在、静岡市内に展開している薬局メディスン、静岡県内に展開している杏林堂薬局の2つの薬局に薬学部連携薬局として委嘱し実習の拠点を形成しています。薬局実務実習では、実習の指導経験が豊富な薬剤師の方々に臨床教授として参加していただき、学内での教育では何が足りないのかなどの臨床教育に対しての短所、長所のフィードバックをいただき、PDCAサイクルを回しています。

問題解決能力を備えた学生を育成するために

ー支援や研究体制が整備されましたが、学生に対して今後の展望をお聞かせください。

私自身、病院薬剤師を20年を経験し、その後、大学教員となった実務家教員です。薬剤師の経験を経て常々感じていることはエビデンスを使うだけの薬剤師がかなり増えていることです。

私はそれを、エビデンス・コンシューミング・ファーマシスト(Evidence-consuming pharmacist)と呼んでいるのですが、エビデンスコンシューミングファーマシストでは、エビデンスを使うだけで創ることができません。やはり、エビデンスを使うだけではなくエビデンスを創り出すエビデンス・メイキング・ファーマシスト(Evidence-making pharmacist)薬剤師ではないと、継続的な医療への貢献ができません。

エビデンスを創りだすことに必要なことは以下の3つです。

  • 問題を発見し、解決に導くことができる問題解決能力
  • 研究計画を立案し、研究に必要な高度な機器を使いこなす遂行力
  • 上記二つを持ち患者さんのためになる研究を行うモチベーション

この3つのことを修得することを期待し、また、臨床薬学研究で成果を出し薬物治療に役立つようなエビデンスを創っていく薬剤師を輩出したいと考えています。

ー問題解決能力の高さが必要との内容ですが、学部内で高めるために行っていることはありますか。

1年生から、PBL(Problem-based Learning)教育を行っています。小グループに分けてディスカッションし結論に導いていくことで問題解決能力の育成に繋がります。

また、卒業研究もかなり重要となります。卒業研究というのは、問題解決能力を作り出す究極の教育ですが、本学の場合は3年生の後期から研究室配属となり、2年半かけて研究室で活動をしながら卒業研究を行っていきます。

このように、卒業研究をしっかりと行うことで問題解決能力を持った学生を育成できると考えています。

卒業生との連携で学生の意欲が変化

ー学生への支援と薬学・教育研究センターでの薬学研究の取り組みは、卒業後の学生にどのような成果がありましたか。

静薬学友会が法人化したのは2018年なので、具体的な数字としての成果は出ていませんが、実は昨日も本学の卒業生であるPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)の部長に来ていただき、学生に講義を行ってもらいました。

このような、卒業生の方に講義をしていただくと、学生にとっても親近感が湧きます。お互いに距離が短くなり、講義後、学生が講師に質問にくる機会が増え教育に対してのモチベーションアップに繋がっているのではないかと思っています。

また、日本薬学会という薬学の中では規模の大きな学会があります。そこで毎年学生・大学院生の優秀発表賞がありますが、表彰される学生の数が2016年には本学が全国で1位になりました。他の年でもほとんど5位以内ですので、学生の研究レベルは高いと自負しています。

今後も高度な技術と薬学的思考力を兼ね備えた人材の育成に努めていきたいと思っております。

静岡県立大学薬学部のHPはこちら


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